肝性脳症とは、肝機能が著しく低下し、肝臓での解毒作用が障害されて有害物質が脳に達し、脳の機能が低下した状態と生じる症状を指します。
原因
肝硬変、肝がん、劇症肝炎などにより肝機能が著しく低下し、肝臓で解毒作用が障害されてアンモニアなどの有毒物質が脳に達し、脳の機能が低下することによって発症します。「9)門脈圧亢進症とは?」で述べましたが、門脈圧亢進により形成された迂回路を通って有害物質が脳に達する場合もあります。肝機能の低下によるアミノ酸のバランスの崩れも原因の一つとされています。
症状
重症度によって潜在性からⅣ度まで5段階に分けられます。潜在性は精神神経機能検査のみで異常を示し、Ⅰ度はわずかな注意欠如、昼夜逆転などがみられ、Ⅱ度は無気力、無関心などと手が保持できないで小刻みに震えてしまう羽ばたき振戦がみられ、Ⅲ度は刺激には反応する傾眠傾向などがみられ、Ⅳ度になると刺激に反応しない深い昏睡状態になります。日本肝臓学会ホームページ の「肝硬変ガイドライン」の中の「各種分類、診断基準 2.肝性脳症」が参考になります。
診断
精神神経症状の問診と羽ばたき振戦を調べます。血液検査と画像検査により、肝機能の状態と原因を検査します。血液中のアンモニアが上昇し、分岐鎖アミノ酸(BCAA)が減少してアミノ酸バランスが崩れます。潜在性の脳症の診断には、定量的精神神経機能検査や脳波検査が必要になることもあります。
治療
血液中のアンモニア濃度を下げ、アミノ酸のバランスを整えます。腸管内で産生されるアンモニアを減少させるために、誘因となる便秘やたんぱく質の過剰摂取を避ける食事指導、合成二糖類や腸内細菌叢の改善をはかる抗菌薬の内服が行われます。アミノ酸バランスを整えるためにBCAA製剤の内服や点滴で行います。昏睡状態の場合、血漿交換療法や吸着式血液浄化法などで有害物質を除去することもあります。