針刺し事故とは、医療従事者などが血液や体液で汚染された器具で外傷を受けた事故の中で、患者さんに使用した血液の付着した注射針を誤って刺してしまう事故で、病原体の感染が問題となります。

問題となる感染症
針刺し事故の頻度は医療従事者の中で看護師が最も多く、使用した針に蓋をするリキャップ時に手指を刺してしまう事故が最も多いとされています。血液を介して感染する疾患としてはB型肝炎、C型肝炎、後天性免疫不全症候群(エイズ)、成人T細胞白血病、梅毒などがあげられます。針刺し事故による感染成立はB型肝炎ウイルス(HBV)30%、C型肝炎ウイルス(HCV)3%、ヒト免疫不全ウイルス0.3%といわれています。

HBVへの対応

医療従事者などは、HBワクチンを接種してHBs抗体を獲得しておく必要があります。針に付着した患者血液がHBs抗原陽性の場合、HBワクチン既接種者で抗体陽転歴(抗体値 10 mlU/mL 以上)ありでは特別な対応は必要なく経過観察としますが、HBワクチン未接種とHBワクチン既接種者で抗体陽転歴なしでは抗HBsヒト免疫グロブリン(HBIG)を投与し、HBワクチンを追加接種します。

HCVへの対応

HCVへの対応は受傷者のフォローアップとなります。抗ウイルス剤のインターフェロンによる事故後の予防策は確立されていませんでしたが、HCV感染の治療がより有効で副作用の少ないDAA(直接作用型抗ウィルス剤)と呼ばれる経口薬に代わってきているので、予防策についても新しい方法が導入されると考えられます。HCVに対するワクチンは開発されていません。

針刺し事故の予防

注射針をリキャップせずに廃棄できるシステムや防御装置の付いた安全器材の導入により、針刺し事故は大幅に減少しています。診療業務中に生じた針刺し事故などの血液や体液で汚染された器具で外傷を受けた事故後に発症した肝炎などの診療費は労災保険により補償されます。